今井政之・眞正・完眞 陶展

91(2018.07.25)

今回は、2018年4月27日(金)~5月16日(水)の期間中、京都陶磁器会館2Fギャラリーにて開催しておりました、「今井政之・眞正・完眞 陶展」をご紹介させていただきます。この展覧会は、親子・孫の三世代による展覧会となっており、お祖父様であられる今井政之さんは、「面象嵌(めんぞうがん)」という、とても難しい技法を駆使し、日展を中心として活躍され、その功績から2011年には文化功労者に選定されています。

 

1 三代の作品は、それぞれの特色を持ちつつ、どこか系譜を感じることの出来る作品となっています。彼らの作品の多くは薪窯で焼成されています。京都市内では、使用することの出来ない薪での焼成のため、政之さんのアトリエと窯のある、広島県竹原市にて焼き上げられます。竹原のアトリエには、薪を使う穴窯が2基、登り窯が1基あり、その焼き上がりにまでには半月以上の日数がかかります。

 政之さんは、もともと備前で修行されており、その後、京都にて初代勝尾青龍洞氏の一門に入り、楠部弥弌氏に師事し、現在まで日展を中心に活躍されてきました。そのため備前の土を使った作品が多く、特にデリケートな作品となっています。
 穴窯で最高温度まで焼き上げるために6日間、その後、窯から作品が出せるように温度を下げること2週間かかります。最高温度に到達するまでの時間の長さは、他の窯と比べると圧倒的に長く、備前の土でなければ、2・3日もあれば到達することが出来ます。備前の土は急な温度変化に弱く、窯出しした作品を洗浄し、日向に干しているだけでも割れてしまったそうです。

 そんなデリケートな土を使い、面象嵌を施すというのは、かなりリスクを伴う技法となっております。そもそも、象嵌という技法は、ベースとなる作品に図案を彫り込み、色を付けた別の土を埋め込むことで、模様を作り出す技法となります。2この象嵌という技法の中で「面象嵌」と「線象嵌」という技法に分けることができます。「線象嵌」という技法は比較的簡単で、ベースとなる作品に針等で線を彫り、彫った溝に違う色の土を埋め込む技法となっています。

 それに対し、「面象嵌」はベースとなる作品に図案を彫り込み、そこへ違う色の土を埋め込むことで、模様を作り出す技法となっております。線象嵌に対し面象嵌の方が、埋め込む土の面積が増えるため、ベースの土と埋め込んだ土の収縮率が違うと、ひび割れたり、浮き上がってしまいます。この収縮率は、土そのものの収縮率や土の持つ水分量、作品の乾燥するスピードによって変わってしまい、剥離やひび割れの原因になってしまいます。そのため、作品の制作時より細かな管理が必要とされます。
 そうして幾多の関門をくぐり抜けた作品は、優美で繊細な表情を持ちながら、逞しさを感じる作品となっています。

 

 

3 眞正(まきまさ)さんの作品は、動物をモチーフにし、そこに様々な用途や図案を組み込むことで、様々な表情を持つ作品を作られています。手びねりという技法を使い、徐々に作り上げられていく動物たちは細かなデティールまで再現されており、動物である部分だけを取り出すと、本物の動物がそこにいるかのようです。

 精巧に作り上げられた動物たちに様々な、用途を組み合わせていくことで、花器であったり香炉であったり、祭器であったりといった様々な顔を持つ作品へと変化させていきます。
  精巧に作り上げられた動物たちには、実際に使うことのできる「用途」ともに、テーマに沿った様々な「文様」も施されることがあります。金銀彩で彩られた文様によって更に生き物の輪郭が強調され、抽象と具象との間に面白さを感じる作品となっています。

4 また、政之さん眞正さんは、食器や茶道具といった用の美も追求されており、薪を使った窯独特の色気を持った作品も制作されています。
そこには、備前で培われた技術が多く取り込まれており、土と窯と炎と対話し作り上げられてきた物となっております。
 土の成分、窯の中の位置、炎の通り抜け方、様々な条件を把握し、作品にどのような景色をつけていくかを、事前に考えた上で制作に取り掛かります。実際に窯に火を入れる際には、作品それぞれの想定通りに景色をつけるにはどのように配置し、薪のくべ方、炎の勢いなどを計算し、焼成し作り上げられます。

 

 

5 政之さんのお孫さんになられる完眞さんは、東京芸術大学在学中より、その素晴らしい才を発揮され、大変注目されています。
 完眞さんの作品は植物や生物を本物と見間違うような造形で作り上げられた作品となっています。具象や自在物といったリアリティを追求したものです。これまでに、花や野菜などの植物や蟹、蛸、魚などの生き物をモチーフに作られてきました。どの作品も、生々しく今にも動き出しそうな造形をしており、いきものとしての瑞々しさや表面の加工などに陶芸の細かな技術が盛り込まれており、第一印象の驚きと観察することで見えてくる細緻な技術に驚かされます。
 オブジェだけではなく、花器など様々な作品を作り出されている完眞さんからは、祖父の代から流れる「今井家の系譜」を感じることが出来ます。

 生き物が持つ、一つ一つの動きの意味や物語を、作品の表現として焼き物の中に閉じ込める。そうやって作り上げられた作品は、見る側に様々なことを語りかけて来てくれます。時にシリアスに時にユーモラスに、饒舌に語りかけてきてくれ、作品とともに穏やかな時間を過ごす事のできる作品となっております。

 6今井家三代。
 いきものをモチーフに、平面から立体へ、抽象から具象へ。
 世代とともに受け継がれ、新たに生み出されていく作品が、今後、どのように変遷し生み出されていくのか楽しみです。