竹村繁男・陽太郎

2016.07.31 更新

IMGP0392今回のクローズアップ陶人は、京都市山科区勧修寺で作陶される竹村さん親子の工房を尋ねた。
父親の繁男さんは京都市立日吉ヶ丘高校の陶芸科を卒業された後、釉薬陶芸の大家、木村盛伸氏に師事され、焼き物の腕を磨かれた。
ご子息の陽太郎さんは大学を卒業された後、一般の企業に就職されて数年間は会社員として陶芸とは無縁の仕事をされていたが、27歳の時に京都府立陶工高等技術専門校の成形科に入られてロクロ成形の技術を習得され、その後、京都市工業試験場の陶磁器研修コースにて陶磁器全般について学ばれた。現在は父親の繁男さんと共に作陶されている。
父親の繁男さんは、天目や青磁、灰薬など格調高い釉薬を施した焼き物で有名な木村盛伸氏の下で学ばれたことから、灰薬を中心とした作品を多く作られている。

 

 

 

IMGP0364息子の陽太郎さんは
「私も初めは父親と同じ灰薬の仕事をやっていたのですが、個人で活動していく上で、自分らしいものをということで全く灰薬とは違った作風のものを作るようになりました。」
作陶を始められた当初は、繁男さんと同様の灰薬のものを焼かれていたが、自身で作品展などを展開していく中で、やはり父親とは別の物をと考えるようになり、現在では白く焼き上がる陶土で作る素地に顔料による色化粧土でグラデーションをつけたり、模様を施したりするなどして、独自の世界観を放つ作品を作られるようになったそうだ。
作品には上薬はかけず、素地本体に色化粧土を吹き付け、焼き締めの状態で完成される。その作品からは、いわば泥臭さのようなものは感じられず、モダンかつスマートさを感じさせるような作品に仕上げられている。顔料によるグラデーションが実に美しい。
繁男さんの作品は、灰ベースの上薬をたっぷりとかけて焼き上げた作品で、暖かみと美しさを感じさせる作品だ。
工房には灰薬の作品がいくつも置かれているのだが、一つ一つ、その表情が違う作品が並んでいる。繁男さんによると、これらの灰薬は、その調合のほとんどが灰成分で、上薬としての焼成温度などを安定させるために少量の長石を配合しているだけで、発色のためのタネである金属成分は全くと言って良いほど加えていないらしい。

 

 

 

IMGP0398「灰の種類を代えるだけでまったく色が変わってきたりしますからね。それが僕にとっては非常に面白いですね。」
陶磁器の上薬における発色剤である金属成分の配合なしで、これだけの発色のバリエーションを出しておられるのは驚異に値すると言っても良いだろう。
繁男さんの灰薬に使っておられる灰は、一般的に陶磁器の灰薬の原料として用いられることの多い、藁灰や樫灰といったものではなく、葡萄の木の枝を燃やした灰や向日葵の灰、杉、柑橘類のハッサクの木灰、イチジクの木灰といった特殊な灰を上薬の材料として使っておられる。
「いろいろな植物の灰は陶磁器の原料を売っている店に定番で置いている原料ではないので、自分で集めなければなりません。それが難しいです。最初に手がけた灰は、たまたま親戚に蒲鉾の板を製造している人がいて、その蒲鉾の板というのは杉の木しか使わないんです。蒲鉾の板として杉を切るときにどうしても廃材になってしまう端の部分を集めて灰にしたものを最初は使いました。」
杉の木灰を皮切りに繁男さんは様々な植物の灰を求めていかれる。
別の農家の親戚が持つ耕地の空いたところを借り、自ら向日葵を栽培し、それを燃やした灰も試された。

 

 

 

 

 

IMGP0407「向日葵の灰は、最初の年に栽培したものの灰を使った灰薬が一番綺麗に焼き上がりましたね。実に表情豊かな釉状になりました。最初の栽培でしたから、それまで地中に含まれていた、あらゆる成分を吸い取って育ったのでしょうね。」
初年度の向日葵は、地中の水分に溶け込んでいる極微量のミネラル(金属成分)を存分に吸収したものだったのだろう。そのミネラル成分には、鉄分や銅、カルシウム、カリウム、燐など、陶磁器の上薬の発色剤として活躍する鉱物も含まれていた可能性が想像される。
考えてみれば古代、焼かれていた陶器は上薬をかけずに、陶土で作られた素地のまま窯に入れられ焼かれていた。いわゆる、現代で言う”焼き締め”の陶磁器だったのである。そのころ焼かれていた焼き締めのものは須恵器と呼ばれる。
須恵器の「須恵」の”すえ”と読む文字は、後に陶(この字もまた”すえ”とも読む)の字が充てられ陶器(とうき)という名の語源だと言われている。

 

 

 

IMGP0411須恵器のように上薬をかけずに焼いていた素地に、窯の炎の燃料として使っていた木の灰が自然と降りかかり、灰に含まれるアルカリ土類(植物の灰の場合、主成分は石灰と珪酸)が素地の陶土に含まれる長石分と表面で化合し、熱によりガラス化する。それによって自然に素地の表面に光沢が生まれたのである。
この現象を発展させたものが上薬であり、降りかかる灰の偶然性に頼らず、焼く前に素地に灰を釉薬として表面にコーティングしておいて焼き上げるようになった。上薬をかけることによって得られた素地表面のガラス質の成分は長石と珪酸および石灰で、それらが熱化合しガラス化したものだが、そのガラス質の発色は灰に含まれるアルカリ土類以外の金属成分によるものである。

 

 

 

IMGP0402この金属成分として主に考えられるものは、鉄、銅、マンガン、コバルト、燐などであるが、自然に生えている木の灰に存在する金属類は、その木が生えていた土から木が自然に吸い上げたものに、微量に含まれる。繁男さんのように、栽培した植物を燃やした灰を使い、上薬を作ってそれを素地にかけ焼かれる作品は、化学的に灰の成分分析でもしない限り、それらを焼き上げて窯から出したとき、どのような色に発色し焼き上がってくるのかは、作品を窯から出すその時までわからない。つまり、自身の作品を自らが作った灰にゆだねているのである。作品を大自然にゆだねていると言っても良いかもしれない。

このような、古代の焼き物に準ずるような手法で作られる繁男さんの作品には古代の焼き物に通ずるロマンを感じるし、焼き物の原点でもある。古代の手法に基づき自然にゆだねて焼き上げ、窯から出すときの作品の表情に期待する。これこそは正に、焼き物の醍醐味なのではないだろうか。
この自然焼とも言える父親の繁男さんの作品造りに比べ、ご子息の陽太郎さんの作品造りは対局にあるものであるとも言える。既に熱化合により発色を固定化させた顔料を用いて作品に加色や模様を付ける手法をもってすれば、安定して同じ物を繰り返し作ることができるし、事前にある程度、作品の焼き上がりの状態が想像できる。しかし言い換えれば、それだけにデザイン力や発想力を作品造りの際に問われる仕事でもある。

 

 

 

IMGP0399繁男さんは
「私がこのような仕事をしていますので、息子は、それとはまるで違ったものをと考えて今の作品に辿り着いたのだと思います。親子で、まるで正反対の仕事をしているみたいに見えますが、それだからこそ、お互いに刺激し合っているような気がします。息子は私の仕事を見て安定した確実なものをと考えて研鑽しているようですし、私はそこにはない、自然相手のギリギリの線を狙って作品を焼き上げようとする。お互いに切磋琢磨していると思います。」
焼き物は美術作品でもあるが、伝統工芸でもある。陽太郎さんは父親の繁男さんとは違った作風でありながら、京焼の伝統は受け継いでおられると思う。互いにそれぞれの作品を磨き合っている竹村さん親子の関係は、自身の作品を高めあっていく中で自然に形作られた、あるべき姿なのだろう。

 

 

 

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大日窯

竹村繁男

1953年 京都山科に生まれる
1972年 京都市立日吉ヶ丘高校陶芸科卒業 木村盛伸先生に師事する
1975年 第四回『日本工芸会近畿支部展』初入選 以来毎年入選
1978年 京都府工芸美術展入選
1980年 独立し、山科に大日窯を開窯する
1988年 第三十五回『日本伝統工芸展』入選
1989年 『土の子会』結成
1994年 『蓬莱会作陶展』に出品
1996年 第二十五回『日本伝統工芸近畿展』奨励賞受賞
高島屋大阪店にて個展 以後隔年
1998年 第五十三回『新匠工芸会展』入選
2001年 京都工芸美術作家協会展『二十一世紀の出発』
高島屋京都店にて個展(2006年・2010年)
2003年 高島屋岡山店にて個展(2005年・2007年)
高島屋横浜店にて個展(2006年・2008年)
2007年 第三十六回『日本伝統工芸近畿展』京都府教育委員会教育長賞受賞
2008年 日本工芸会陶芸部会正会員による、第三十六回『新作陶芸展』日本工芸会賞受賞
2010年 第三十九回日本伝統工芸近畿展にて鑑査委員に就任

 

 

竹村陽太郎

1981年 京都山科に生まれる
2009年 京都府立陶工高等技術専門校 成形科修了
2010年 京都市工業試験場 陶磁器研修コース修了 大日窯にて父、繁男と共に作陶を始める
2011年 第四十回『日本伝統工芸近畿展』入選
国民文化祭 京都2011・美術展「工芸」奨励賞受賞
2012年 第四十一回『日本伝統工芸近畿展』入選
京都美術・工芸ビエンナーレ入選
2013年 第四十二回『日本伝統工芸近畿展』入選
高島屋京都店・美術工芸サロンにて個展
2014年 第四十三回『日本伝統工芸近畿展』入選
2015年 第四十四回『日本伝統工芸近畿展』入選
2016年 第四十五回『日本伝統工芸近畿展』入選

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