伊藤竜也

2015.10.05 更新

IMGP8066大正時代から続く、清水焼の陶業地である日吉地区で作陶をされる伊藤竜也さんを今回は訪ねた。伊藤さんは、高校を卒業さ れたあと、ロクロの技術を身につけるために京都府立陶工高等技術専門校に入られた。ただ、伊藤さんの場合は、家業が清水焼の窯元であり、子供の頃からロク ロを回して器を作るということはされていたとのこと。
「小学生の頃は、よくロクロをしていました。中学の頃と高校生の頃はあまりしませんでしたが、それこそ、小学生の頃は何度もロクロを前に座って、遊びの延 長という感じでやっていました。遊びでロクロを回していたという感覚もあり、特に、父に教わることはなかったのですが、父の見様見真似で手さばきを工夫 し、それなりの器は作っていました。」
いわゆる、“門前の小僧習わぬ経を読む”といったところである。
高校を卒業されたあと、陶工技術専門校に入られる前、半年ほどの間準備期間があり、その時は父親に付きっきりで教わりながらロクロの練習をされた。その後、陶工技術専門校で本格的に技術を習得されたのである。

 

 

DSCN7147伊藤さんは陶工技術専門校に2年通われ、1年目はロクロ技術の修練、2年目は釉薬研究にウエイトを置かれて学ばれた。現在、伊藤さんが焼かれる作品は、陶工技術専門校での釉薬研究の成果を元に調合される天目釉がかけられたものだ。
天目釉であっても、ただ単に、全体的に黒く発色する天目釉ではなく、乳濁色を帯びているというのか、黒色をベースに、黒以外の発色が各種入り混ざったよう な複雑な表情をもった釉薬である。複雑な表情と言っても見て受ける印象は難解というものではなく、窯で焼かれる時に色々な要素から自然に生み出された色 で、その発色が実に美しい。
それも、同じ大きさで同じフォルムの器でも、それぞれに発色の状態が違っていて、全く同じというものがない。これは、窯で焼かれる時に、それぞれの器が窯 の中の置かれた位置の違いから起きる、還元炎の当たり方の違いや釉がけの時に個々の器に生じる釉薬の厚みの違いなどから、そういった個性が生まれるのであ ろう。
当然ながら、焼成時の偶発性から生み出される作品の個性であって、それであってこそ、一つ一つ、個性を持った作品であることが面白いのである。

 

 

DSCN7160 ただ、天目釉というと、鉄分が比較的多い赤土系の陶土で作られた素地に施されていることが普通はほとんどだが、伊藤さんの作品は素地が白いものに天目釉がかけられている。
「私の作品は、磁器の素地に天目釉をかけています。私自身もともと、陶器よりも磁器の方が好きで、磁器の素地にかけて、天目として発色する釉薬を研究して、この天目釉を作り出しました。」
通常、陶磁器を焼く時の焼成温度は、陶器よりも磁器の方が高いことが多い。それ故、陶土の素地にかける天目釉よりも、伊藤さんの作品のように磁器にかける天目釉は融点が高い調合にしなければならない。
「家が磁器を作る窯元ですので普段焼いている、磁器を焼く窯に一緒に入れて焼ける天目を目指しました。陶器を焼く窯よりも温度が高いですから、赤土素地で すと素地自体にブク(温度が高すぎて土に含まれるガラス成分が溶融し、素地が部分的に発砲する現象)が出たりします。ですので、素地も磁器を焼く窯に合わ せて磁土で作ったものになりました。」

 

 

IMGP8094 伊藤さんは、磁器がお好きで磁土ベースの天目釉になったと言われるが、天目釉を磁土に施すことによって思わぬ好結果が得られているということもあるように思う。
伊藤さんの天目釉のように、乳濁を起こす釉薬は、磁土に施した時は綺麗な乳濁になるが、同じ釉薬を陶土に施すと乳濁を起こさないという現象があったりする。
また、器一つ一つに表情が違う焼き上がりになるのも、釉薬の厚みによる微妙な差異から出るものだと仮定すれば、地色が白い磁土に施された天目釉であるが故、発生する個性ということも言えるのではないだろうか。
陶工技術専門校を修了されてからは、家で作陶を続けて現在で5年目になるそうだが、陶工としてのキャリアが5年というのは、一般的には陶工として、まだ新 米の部類に入るかもしれない。しかしながら、5年目にして、これだけの作品を焼き上げられているのはすばらしい。
伊藤さんは、この天目の作品で、平成26年に開催された「日吉開窯100周年記念コンペティション」において最高得票数を獲得され「一般投票で選ばれる最優秀グランプリ賞」を受賞されている。

 

 

IMGP8212 伊藤さんにこれからの作品造りの方針についても尋ねてみた。
「新たに、黄色味がベースの釉薬を研究したいと考えています。清水焼窯元としての家の作風は、染付のものが主流なのですが、私自身一人だけで手がける作品となると、釉薬だけで表現できるものになると今は思っています。」
今後も、釉薬のバリエーションを増やし、作品の幅を広げていこうと伊藤さんは考えておられるようだ。
「今の仕事のスタイルとしては、主に家の窯元としての仕事をしながら、時間を作っては自分の作品造りに励むというやり方です。とにかく今、仕事をしていて、とても楽しいです。今が一番、毎日が楽しくて充実しているように思います。」
職人としても、一人の陶芸家としても伊藤さんは今、ノリに乗っているといったところなのであろう。楽しいと感じて作っておられる作品には、その思いが一つ一つの作品におのずと、反映されてくると思う。
伊藤さんは現在、力を入れて作っておられる天目釉の作品で、初めての展覧会を12月に京都陶磁器会館の2階ギャラリーで開催される。
希望に満ちた伊藤さんの作品に喜々としたものを感じられる展覧会になるに違いない。陶芸家として、まだまだこれからの伊藤さんの活躍に大いに期待する。本当に、心から頑張っていって欲しいと願う。


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紫峰窯  伊藤竜也

1988年 京都に生まれる
2009年 京都府立陶工高等技術専門校 入学
2011年 京都府立陶工高等技術専門校 修了
修了後、父(紫峰)に師事する
2014年 日吉開窯100周年記念コンペティション 一般投票で選ばれる最優秀グランプリ賞受賞

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