加藤清昌

2015.03.30 更新

 「職人仕事に高い芸術性と魅力を感じて、私も絵付け職人として頑張りたいと思うようになりました。」と語られる加藤清昌(かとうせいしょう)さんは、京都市東山区泉涌寺地区で工房を構えて作陶をされている。今は、ほぼ絵付けを専門として日々の仕事をされているが、高校を卒業されたあとに進まれた京都府立陶工職業訓練校(現、京都府陶工高等技術専門校)では二年間、ロクロ成形を学ばれた。しかしながら、父である先代の加藤清昌氏がロクロの専門であったことや、良い作品を作り出していくためという理由から、絵付けの必要性を強く感じ、ロクロから絵付けの仕事へと移行されていく。絵付けの技術に関しては陶絵師の水谷光年氏に師事されて絵付けを習得されていった。 加藤清昌さんは、二代前であるお祖父さんが、瀬戸から京都に移られて、清昌窯を開かれ、現、加藤さんで窯元としては三代目となるが、現在は煎茶器を主とする茶陶を専門として作陶されている。父である先代清昌さんが作られる白磁の素地に色絵で絵付けをされて作品に仕上げていかれるのだが、その施されている絵付けが、非常に細かくて緻密な絵となっている。

 

 

 

 「最近の陶芸をやっている若い人は、絵を描かないように感じるのですが、どうなんでしょうかね。手間がかかり、熟練した技術を要する絵付けよりも、奇抜な形状の物を作品としたり、絵よりも釉薬で勝負するというようなものが若い人の作品には多いような気がします。私は毎年、日本煎茶工芸展に作品を出品しているのですが、年々、もっと良い物をと求められるようなところがあって、それに応えるべく、私自身の絵付けや他の装飾技術も高めていったと思っているんです。」 加藤さんが、磁器の素地に施される絵付けは、染付、色絵、交趾など複数の技法を用いて行われる。職人技として一つの技法を習得するだけでも、かなりの努力を必要とするところを複数となれば、加藤さんの技法習得のための修練は相当なものであったに違いない。 「父親がロクロをして作った素地に絵を付けますが、高齢にもかかわらず、今でも元気で仕事をしていてくれますので、私の仕事も成り立っていると、父親には感謝しています。清昌窯の作品として作っているものは茶道具なのですが、その茶道具の中でも煎茶道具が専門です。ですので、比較的小さな物ばかりを制作しています。物が小さいので高齢の父親でも、今でもロクロ仕事が続けられる。そういう意味でも窯の作品として、茶道具を選択したのは正解だったと思っています。」

 

 

  日本煎茶工芸展に出品されている、加藤さんの作品が載っている図録を見せていただいき、実際に出品された作品そのものも見せていただいたが、良いものをと求められ作り続けてこられたその成果が見て、よくわかる素晴らしい作品である。加藤さんの高度な絵付け技術をもってして施された絵はもちろん、素地自体に加えられた土盛りの成形技法も加藤さん独自の高等技法だ。普通は、素地そのものを作った後に、泥状にした土を素地に盛ると、盛った泥が乾燥する段階で、必ずといって良いほどひび割れができたり、ひどい場合には、盛った土が乾燥による収縮で素地から剥がれてしまったりするが、加藤さんの作品には、それがない。 「この土を盛るやり方は、私の得意技の一つでもあるんですが、ひび割れや剥がれが起こらない盛り土の配合を、随分と何度も繰り返し研究しました。」 日本煎茶工芸展出展期間の数ヶ月前から、出展作品の制作に取りかかり、納得のいく作品ができあがるまで、神経をすり減らしながらでも緻密な作業を繰り返して作品を仕上げていかれるのだそうだ。

 

 

 加藤さんの普段の仕事でも、作品に込める思いは強いものがある。特に、絵付けに関しては一つの技法に留まらず、染付、色絵、交趾など、貪欲なまでに複数の技法を駆使して数々の作品を作られる。 「私のように色々な絵付け技法に手を出すのではなく、一つの技法に執着して極めた人が描かれる絵は凄味を感じるものだと思いますが、そうやって色々な技法に挑戦することができる自分自身の環境がありがたいと感じて仕事をすることが大事だと考えています。」 複数の技法を用いて施される加藤さんの絵付けには、加藤さん独自の世界観が反映されたデザインになっているものが多い。 「私は煎茶器を専門としていますが、最近は器の一周ぐるりと全面に絵を付けてはいけないのではないかと考えるようになりました。器にも表と裏があってしかるべきということや、例えば煎茶の急須なら口のところにくるべき絵というものがあるのではないかと考えるようになっています。特に山水の絵などは、そういう観点が基本にあって、絵を付けないといけない。なぜなら、山水画には、それを見て物語を感じてもらえるようなものでないといけないからです。」 絵付けという作業が、単なる模様を施す作業ではなく、人物画なら人の動き、風景画なら季節というような、器に施された絵からそういう息吹のようなものを感じる絵を付ける作業であるべきなのだろう。

 

加藤さんは、自らの仕事に関して、これからの展開についての話もして下さった。 「海外では、日本酒が注目されていて人気が高まっているそうです。イギリスの出身で現在アメリカでもデトロイ・トテクノのミュージシャン、DJとして活躍しているリッチー・ホーティン(Richie Hawtin)という人が間に入って、海外で京都の伝統工芸品をアピールしてもらおうという事業が京都市によって「KYO-MONO is COOL!プロジェクト」と題して始まりました。先日、私はその事業の会合で、リッチーさんとお話をさせていただきましたが、海外での日本酒ブームに乗って、お猪口や杯などの日本の酒器も海外で売っていこうという意気込みをリッチーさんのお話から感じました。これは、日本の焼き物が、これからの展開として目指すべき方向の一つの動きであると思います。これからは、海外にも目を向けて、日本の焼き物をアピールしていかないと、いけないのではないでしょうか。」 伝統技法を重視して、作品造りに真摯に取り組まれるだけでなく、海外展開にも目を向けて先に進もうという姿勢も持っておられる。加藤さん仕事は、そういう意味では温故知新的なものがあるのかもしれない。加藤さんのこれからの活躍が楽しみだ。

 

 

 

三代 加藤清昌

1967年 京都市に生まれる
1988年 京都府立陶工職業訓練校専攻科修了
1989年 京都市工業試験場陶磁器研修コース本科修了
二代、加藤清昌の下で製陶に従事する
陶絵師の水谷光年先生に絵付けを師事
2010年 三代、加藤清昌を襲名
日本煎茶工芸展 工芸協会賞受賞
2013年 京焼・清水焼展 京都府酒造組合連合会会長賞受賞 審査員特別賞受賞
2014年 日本煎茶工芸展 工芸協会賞受賞

煎茶工芸協会正会員

〒605-0976
京都市東山区泉涌寺東林町35
075-561-8982