涌波隆

2013.05.02 更新

 京都市東山区清水に工房を構えられる涌波隆(わくなみたかし)さんは、清水焼の名前の由来でもある、その地で作陶活動を続けておられる。

涌波家は代々続く陶芸家の家柄であるが、涌波さんは、早くして高校生の時に父親を亡くされ、その時、陶芸の手ほどきを父親から全く受けていなかったことから一時期、陶芸の家柄を継ぐかどうかを迷われたそうだ。

そんな考えもあり、大学は陶芸の専科ではなく、造形美術科・芸術計画群という科目を専攻され、広く芸術学に関する勉強をされた。
「陶芸の家を継ぐかどうかは、正直かなり迷いました。でも、自分自身が、もともと陶芸が好きだったんです。」

 

 

 大学卒業の時点で進路を考えたとき、幼いときから見ていた両親が陶芸に携わる姿が頭の中にあった。 陶芸家の家に生まれたこと、そしてやはり、自分自身、陶芸が好きであることを再確認し、自らも陶芸の道に進むことを決心されたのだそうだ。

涌波家は、現世の隆さんで四代目に当たり、陶芸を最初に始められたのは隆さんの祖父である。隆さんの祖父は、格調高い青磁の作品を数多く残した初代、諏訪蘇山氏に師事された。当時、諏訪蘇山氏の弟子に当たる人物は数名いたそうだが、一人前として独立する際、“蘇”の一時をもらい請け、隆さんの祖父は「蘇嶐(そりゅう)」と名乗られた。二代目蘇嶐は隆さんの父親で、三代目が母親、隆さんは四代涌波蘇嶐である。

 

  隆さんが作られる作品は、その諏訪蘇山氏の作風を汲む青磁の作品が中心であるが、生きておられれば最も身近な師匠であったであろう父親からの薫陶がなかったことから、作品造りは苦労の連続だったそうだ。

「祖父や父親が作っていた作品に使われている青磁の釉薬の調合などはノートに残ったものはあります。しかし、当時の原料と今のものでは、やはり質が変わっていますので、同じ調合にしても、同じ色合いには決して焼き上がらない。窯の違いや焼き方の違いによっても変わってきます。」
釉薬の調合だけではない。もともと涌波家が代々受け継ぐ青磁は、諏訪蘇山氏の流れを汲む釉薬にも磁土にも調合を加え、独特の深い色合いの青磁に仕上げるのだ。
「最初は、全くこの色合いは出ませんでした。何度も繰り返し調合や窯の焼き方を研鑽してやっと、この色合いが出るようになりました。」
と隆さんは語る。

 

 隆さんは、ほぼ、一年に一度のペースで個展を開催され、グループ展も含めると年に数回の展覧会を開催されているが、展覧会をされる毎に新しいことに挑戦することをモットーとされている。

「この青磁の器に施している模様も、新しくチャレンジして模索の結果、得たオリジナルの技法なんです。」
一見すると磁胎に施されているその龍の模様は浮き彫りのように見えるが、彫ってあるのではなく、土を貼り付けて立体感のある模様にされているのだそうだ。器を形作った後にまた、土を貼り付ける作業は特に、磁器の場合は困難な作業となる。

一旦、形作った器の乾き具合と、貼り付けるための土の乾き具合が、双方ほぼ同じ乾き加減でないと、うまく貼り付かない。乾燥の加減が違えば単に貼り付けてもその後、完全に乾燥させる段階で剥がれ落ちたりするのである。

涌波家が代々受け継いできた青磁の器に、土を貼り付けるという技法で、ここまでの大きな模様を施す加飾は隆さんの代で始められた技法とのこと。父親からの指導を受けられなかったことを隆さんは残念に思っておられるが、新しいことにチャレンジして、自身の作風を作り上げようとするその精神は代々受け継いでおられるのだろう。

 

 隆さんは、自身の工房で陶芸教室を開いておられて、指導をされている。兵庫県の芦屋市にある規模の大きな陶芸教室にも指導に行かれているそうだ。
「まず、陶芸自体に馴染んでいただきたいんです。そして実際に作っていただくと陶芸に対する見方が変わられる。そして私の作品を見ていただくと、以前とは違った見方で作品を捉えていただけます。私自身、人と人とのつながりを大切にしたいと考えています。」
隆さんは、積極的に人との交流を持ちたいと言われる。
「陶芸教室でも展覧会でもそうですが、そういう機会で人と交流することにより、私の作品に対して色々な意見をいただけます。その意見から作品へ良い影響を受けることも多々あります。」

 

  多くの意味で、それらのことも隆さんの作品に、その影響が集約されるのだ。
人との交流を積極的に持ち、新たな作風にも果敢にチャレンジされ、陶芸家の道を前進されている隆さんだが、今でも、父親がそばにいてくれたらと思うときがしばしばあるそうだ。

そんな、父親への思いが込められ、四代涌波蘇嶐として代々涌波家の陶芸が受け継がれて今も尚、隆さんの祖父や父親は、隆さんの胸の中や作品に生き続けているのだろうと思う。

 

 

四代 涌波蘇嶐

1977年 京都市に生まれる

成安造形大学 造形美術学 芸術計画群卒業
京都府立陶工高等技術専門校 陶磁器成形科・研究科修了
京都市伝統産業技術者研修(旧京都市工業試験場) 陶磁器コース本科修了

2005年 四代蘇嶐を襲名
2008年 松坂屋 高槻店 四代襲名展
2010年 松坂屋 高槻店 個展
2011年 松坂屋 高槻店 個展
2012年 大和 香林坊店 個展
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