今回、取材にお伺いしたのは、京都は嵯峨野で作陶されている守崎正洋さんの工房。守崎さんは、釉薬(うわぐすりとも言われる)により彩色をされた食器を専門に作られている。
嵯峨野で生まれ育った守崎さんは、京都府園部市にある京都伝統工芸専門校(現在 大学校)で陶磁器の勉強をされ、卒業後、二年間大覚寺陶房を主宰される和泉良法氏に師事された。
その後、京都市工業試験場陶磁器コース専修科で釉薬全般について深く学び、修了後、嵯峨野工房を開窯され現在に至っている。
現在、守崎さんは母校の京都伝統工芸大学校では助手として、姉妹校の京都美術工芸大学では助教として生徒に陶芸の指導もされている。
そんな、釉薬に関して高い知識をお持ちの守崎さんが作られる焼き物は、様々な釉薬がかけられ焼かれた美しいものだ。
辰砂釉や天目釉、乳白釉、あるいは青磁釉など、どれを見ても、綺麗に発色している。
もちろん、全ての釉薬は守崎さん自らが調合されたオリジナルのものだ。京都市工業試験場の陶磁器コース専修科で学ばれた知識と、実験で焼かれた数多くの試験体(テストピース)に基づく知識が活かされている
「釉薬の発色は、窯によってぜんぜん違ってきます。電気窯で焼く場合とガス窯で焼く場合で違うのは当たり前で、同じ電気窯でも異なる窯で焼くと、発色が違って出てくる。
窯の焼き方でも変わってきます。」と、守崎さんは話される。釉薬は調合も大事だが、狙った発色で焼き上げるには窯の焼き方も非常に重要になってくる。
守崎さんは、還元焼成といわれる焼き方をされるのだが、この還元焼成とは窯の温度がある程度以上になった時点から、炉内をガスの炎で満たし、酸素濃度が低い炉内雰囲気にすることで釉薬の発色を促す。
釉薬によっては、窯の温度を下げるときにも、この還元状態を保つ、いわゆる「冷却還元」という焼成技法も用いられるそうだ。
作品を拝見すると、天目碗にかけられた釉薬の表面に茶色い結晶がいくつも析出した禾目(のぎめ)天目と呼べるようなものや銀青色の結晶が析出している油滴天目と呼べるもの、鮮やかな赤い色を呈する辰砂の器、透き通るような青緑色を発する器など、どれも実に美しい。
また、釉薬の乳濁が、まるで雪化粧をした木々で覆われた雪山の景色を創造させるような美しいものもある。この釉薬は黒天目と乳白釉を二重がけすることにより産み出される発色で、ご本人は「流天目」と名付けられている。そして、これら釉薬作品を目の当たりにすると、釉薬そのものの魅力で圧倒される思いだ。
守崎さんに作品を作られるときのコンセプトを訊いてみたところ「私の場合は、食器が中心ですから使いやすいもの、主役の料理が栄えるような器を作っていきたいと考えています。」という答えが返ってきた。
呉須や色絵の具をふんだんに使い、絢爛豪華な絵付けを施された皿などは飾り皿とされ、料理を盛ることを嫌う。豪華な絵が主役の料理の邪魔をするからだ。飾り皿は、工芸作品としてはその存在の意味を持つが、食器本来の機能性から考えると本末転倒のような性質を持つものと言えるのかもしれない。
守崎さんは、食器本来の使命を兼ね備えた、あくまでも料理を引き立たせる控えめな加色、それでいて美しい発色の器を作られているのだ。守崎さんの食器に料理が盛られ、写真掲載されている料理誌がいくつも存在することが、料理を活かす食器として守崎さんの作品が広く認識されている証であると思える。
守崎さんは主に展覧会で作品を販売されており、高島屋京都店、朝日陶庵(京都)では、定期的に個展を行われている。また、日本橋高島屋、池袋西武、新宿伊勢丹などの企画展にも出展されたことがある。作陶活動のみならず、京都伝統工芸大学校と京都美術工芸大学での教鞭も合わせ、これからもますます活躍されることと思う。
守崎正洋
1999年 | 京都伝統工芸専門校(現在 大学校)陶芸本科修了 |
1999年 | 以後二年間、大覚寺陶房にて和泉良法氏に師事 |
2002年 | (株)たち吉主催『京都陶芸の新しい芽』入選 |
2003年 | 京都市工業試験場陶磁器コース専修科修了 |
2003年 | 京都、嵯峨野にて開窯 独立 |
2004年 | 伝統産業「京の若手職人」海外(イタリア)派遣事業に選出 |
2006年 | 2006『めし碗グランプリ展』入選 |
2008年 | 第26回『朝日現代クラフト展』入選 |
2012年 | 第10回『ローディ陶器コンクール』(イタリア)入賞 |
2012年 | 京都美術工芸大学工芸学部助教に就任 |
主な活動として・・・
2003年 | 京都高島屋美術工芸サロンにて初個展 |
2004年 | 新神戸ギャラリー田中美術にて個展 |
2004年 | HANDICRAFTS BAZAAR |
2005年 | 京都高島屋美術工芸サロンにて個展(二回目) |
2006年 | 近鉄枚方店『暮らしのうつわ展』 |
2006年 | 日本橋高島屋『伝統家具とクラフト展』 |
2007年 | 近鉄枚方店『近鉄枚方のアートフェスティバル』 |
2007年 | 京都高島屋美術工芸サロンにて個展(三回目) |
2007年 | 第26回『朝日現代クラフト展』入選 |
2008年 | 和のぎゃらりー昌の蔵(京都)『京の現代工芸 芽ぶきのころ』 |
2008年 | 朝日陶庵アートサロンくら(京都)にて個展 |
2008年 | 京都匠塾のお店『いぶき東山』(京都)にて個展 |
2008年 | ギャラリー「一ツ家」(京都)『京の陶 四人展』 |
2008年 | 西武池袋店『京都からの風-京都若手工芸作家による作品展』 |
2008年 | 近鉄阿倍野店『手わざ手しごと展』 |
2008年 | ギャラリーたちばな(奈良)にて個展 |
2008年 | Mirrors Usa(愛媛)『冬のプレゼント』 |
2009年 | 伊勢丹新宿店『大人のひな祭り』 |
2009年 | 朝日堂ものづくり工房(京都)『若手作家の伝統工芸展』 |
2009年 | 大阪髙島屋『陶・ガラス・布 三人展』 |
2009年 | ギャラリーたちばな(奈良)にて『京の陶 三人展』 |
2010年 | ギャレリア ピアノピアーノ(神戸)にて個展 |
2010年 | カフェダイニングnear(京都)にて『おもし2010』(京都匠塾選抜三人展 |
2010年 | 朝日陶庵アートサロンくら(京都)にて個展(二回目) |
2010年 | 伊勢丹新宿店『かわいい色とサイズの器 ~箸置き50人展~』 |
2010年 | 都島工芸美術館にて個展 |
2010年 | ギャラリーたちばな(奈良)にて『京の陶 小野空女・守崎正洋二人展』 |
2011年 | 『MAISON ET OBJET メゾン・エ・オブジェ』(パリ) |
2011年 | 伊勢丹新宿店『モダンに楽しむ ひなまつりパーティ』 |
2011年 | 日本橋三越本店『京 たしなみ道具 |
2011年 | 伊と忠GINZA『京都伝統工芸BOX』 |
2011年 | ギャレリア ピアノピアーノ(神戸)にて個展 |
2011年 | 『豆皿1000展』(伊勢丹新宿店・三越銀座店・日本橋三越本店ほか) |
2011年 | ジェイアール京都伊勢丹『ガラスと陶器』 |
2011年 | 『関西伝統工芸品スーベニアフェスタ京都’2011』 |
2011年 | 三越銀座店『日本のお米を美味しく食べる展』 |
2011年 | 京都髙島屋美術工芸サロンにて個展(五回目) |
2011年 | 朝日陶庵アートサロンくら(京都)にて個展(三回目) |
2012年 | くらふとギャラリー集にて『第二回震災復興支援ギャラリー〈思い、形に〉』 |
2012年 | ギャラリーカフェ京都茶寮にて『京の伝統工芸 新しい息吹』 |
2012年 | HAND WORKS『motte』(京都)にて個展 |
2012年 | Gallery FUKUTA(東京)にて『京のいっぴん展』 |
2012年 | ジェイアール京都伊勢丹『母への小さなプレゼント15人展』 |
2012年 | ギャラリーたちばな(奈良)にて『京の陶 小野空女・守崎正洋二人展』 |
2012年 | 『豆皿1000展』season-Ⅱ(伊勢丹新宿店ほか) |
2012年 | くらふとギャラリー集にて『工芸綯交(ないまぜ)十人展』 |
2012年 | 伊勢丹新宿店『手土産にしたい そば猪口』 |
2012年 | 大阪三越伊勢丹『秋の彩』 |