絵を描きたいとの強い思いから、「父親の大反対を押し切って、陶芸の世界に飛び込んだのは16歳の時でした。」と話す八木徹さん。八木さんは、もともとお茶農家に生まれ育ったが、陶芸の仕事をしたいという希望で、京都市内の陶工職業訓練校に入り、その後、清水焼窯元に住み込みで修業された。「朝の掃除から始まる、内弟子として修業をした5年間は、もう毎日が嫌で嫌でね。」と言われるが、「でも、その頃に覚えたことが今、こうして身についているのが不思議です。」とも話される。
八木さんは、本焼きをした器に色鮮やかな色絵の具を使って絵を施す上絵(色絵とも言われる)を得意とされる。作品は、実にバラエティーに富んでいて磁器に赤絵を施したものや赤土で作った器に上絵を施したもの、染め付けと上絵をコラボさせた器など、八木さんの多才な面を垣間見るような、見事な作品が数多くある。
そして、注目すべきは陶磁器に上絵付けを施すに留まらず、ガラスに上絵を施した作品も製作されていることだ。ガラスに上絵付けをして焼くというこの作業は、実は簡単なことではない。本来、上絵付けの絵の具はガラス質の透明な釉薬に、発色剤となる金属元素が調合されたもので、どちらも同じガラスということでは溶ける温度は同じなのである。 つまり、既存の上絵の具では、単純に絵付けをして窯で焼いても、ガラス自体も溶けてしまい、元の形状を保たない形で焼き上がってくる。
ガラスのコップに絵付けをして、コップとして元の形のまま焼き上がるようにするには、ガラスの融点よりも低い温度で溶ける上絵の具を新たに開発、調合しなければならないのだ。八木さんは、この問題をクリアした絵の具を独自に調合し、窯の温度の上げ方や窯内の雰囲気の調整を幾度も繰り返し焼くことで研究して、現在の作品にまで仕上げられるようになった。その独自の色合いや微細な線使いなどは、八木さんのオリジナルの絵の具と高い技によるものだ。「初めの頃は、何回も失敗を繰り返しましたよ。でも、懲りずに何度も焼いている内に、少しずつわかってくる。」と八木さんは言われる。この、より完成度が高い作品になるまで飽くことなく挑戦する姿勢は、16歳の時に抱いた「絵を描きたい!」という強い思いが今でも、八木さんの中にあるからだろう。
「私が作る焼き物は、清水焼です。」と八木さんは言われるが、陶磁器に施される絵のデザインや他の技法とのコラボレーションなど、清水焼に新しいセンスを取り入れたいという試みを積極的にされている。ガラスの上絵付けもその一つで、陶磁器とは違い、ガラスは裏面からも絵が透けて見え、陶磁器とは違った透明感を味わうことができる。そして、低火度で焼き付けられた絵の具は、プリントされた模様のように剥がれ落ちることはなく、ガラス越しに見る上絵は実に美しく、永く私たちを楽しませてくれる。
そういった要素を引き出しにして、清水焼に新たなセンスを加えて行こうというのが八木さんの狙いだそうだ。 八木さんがおもしろい話をして下さった。「モノがモノだけじゃない。モノがあるから作り出せる楽しさを伝えるのも、使命かもしれませんね。“アメリカ人が日本の楽しみ方を日本人に教えたら、日本人に喜ばれる。”というパラドックスのような話があるのですが、京都以外の人に京都の楽しみ方を教える、それをまた京都人に教えたら、京都の人が喜ぶかもしれません。陶器においても作り手の私たちよりも、意外とお客さんの方がよく勉強されていて、知っておられることがあります。“研究”と言うより“教養”で知っている感じがしますね。これからは焼き物文化で、いかにお客さんと一緒に遊んで楽しめるかですね。」
作り手側からの視点では、つい見落としてしまう盲点のような部分も、使い手のお客さんの立場からは見えることがある。八木さんは、ご自身の焼き物を使う方の意見や視点を積極的に、作品に反映させたいと考えておられる。
16年の内弟子時代を経て、32歳の時に独立。それから30年が経つが、八木さんの創作活動は今も躍動感溢れている。これからの作品造りに注目したい。八木さんの作品は、全国の百貨店や京都陶磁器会館でも展示販売されているが、(株)宇治田原製茶場が発刊している「月刊 茶の間・お茶と暮らしの情報カタログ」や淡交社発行の「淡交センター・カルム」などの通販カタログからも購入できる。
八木海峰
1950年 | 京都府山城町に生まれる |
1966年 | 京都府立陶工職業訓練校修了 初代加藤如水氏に師事 |
1968年 | 京都信用金庫四条河原町支店において皇后陛下の御臨席を仰ぎ実演 |
1988年 | 第10回京焼・清水焼展にて大阪通商産業局長賞受賞 第31回上絵陶芸展にて京都市長賞受賞 |
1990年 | 銀座松坂屋美術画廊において作陶展 国際花と緑の博覧会’90政府苑に出品 第12回京焼・清水焼展にて京都府知事賞受賞 |
1991年 | 大阪松坂屋美術画廊において作陶展 |
1993年 | フランス日本大使館別館において現代の京焼・清水焼展に出品 同展において絵付け実演 |
1994年 | 第23回日本伝統工芸近畿展入選 |
1995年 | 第24回日本伝統工芸近畿展入選 フランス・パリにおいて四人展 |
1998年 | 京都高島屋において陶芸とグラスアート展 以降毎年開催 |
2000年 | 第22回京焼・清水焼展にてNHK京都放送局長賞受賞 |
2001年 | 第43回色絵陶芸展にて京都府知事賞受賞 日本橋三越において作陶展 |
2002年 | 日本橋高島屋において作陶展 |
2003年 | 京焼・清水焼伝統工芸士に認定 山城多賀へ工房を移転 |
2004年 | 第46回色絵陶芸展にて京都商工会議所会頭賞受賞 |
2006年 | 京都高島屋において作陶展 |
2007年 | 第28回京焼・清水焼展にてNHK京都放送局長賞受賞 第49回色絵陶芸展にて京都陶磁器意匠保護協会賞受賞 |
2011年 | 伝統工芸品産業功労者に認定 |
陶芸 海峰窯 八木徹
〒610-0301 京都府綴喜郡井手町多賀帽子田45
TEL/FAX:0774-82-3699