住宅街の中にあるバス停から、たった15分ほども歩いただけで、周りは長閑な山村のような風景にガラリと変わった。田中宣夫さんの工房は都会の喧噪から離れるように、その地に建っている。
田中さんは元々、茶道具の清水焼窯元に生まれた。京都府立陶工職業訓練校(現、京都府立陶工高等技術専門校)で轆轤(ろくろ)の技術を習得された後、10年間、窯主であるお兄さんの下で茶道具の轆轤職人として携われる。次男であった田中さんは、その後独立。一人で作陶に励む日々を過ごされていたとき、現在の奥様と運命的な出会いを迎える。
「なんか、吸収合併されたようなもんやね。」と田中さんが、にこやかに話されるのには訳がある。
元々、田中さんは田中姓ではなかった。結婚される際、奥様の籍に入る形を取られて田中姓になられたのだが、そのことに迷いはなかったそうだ。現在は、ご夫婦で仲良く作陶を続ける日々を過ごされている。ご主人の田中さんが主に轆轤で器を作り、それに奥様が絵付けをする共同作業で作品が作られていく。
現在も、作られる作品は茶道具が主で、茶道具問屋に作品を納める仕事をされているが、田中さんは徐々に食器に移行させていきたい旨を語られる。常に日々、新作見本を考えておられるとのことで、ヒントになる図案を求めて図書館に頻繁に通うことも多いそうだ。
茶道具は季節感を盛り込んだデザインを要求されることが多い。春は桜、夏は紫陽花、秋は紅葉、冬は椿や牡丹といった、その季節を表す草花の図案を施すことが多いが、去年の桜と今年の桜では、テーマが同じ桜でも少しずつ違った図案を考案して絵を描かなければならない。毎年、違った桜の図案、紅葉の図案を幾パターンも考え続けていかなければならない厳しい面もある。
食器の新作には、デザインに洋風なテイストを加えた、実験的な試みもされており、これらの作品は、メルヘンチックと自ら称されているが、持ち手の部分がト音記号の形になった陶製のスプーンや可愛い猫が並んで夜空を眺めている絵のフリーカップなど、女性に好まれそうな楽しいデザインの作品と成っている。茶道具とはまた違った世界観を食器には表現されているようだ。
田中さんは、これら次々と産み出される作品を発表する場を意欲的に求められている。昨年は、京都市内の町屋で展覧会を開催されたり、全国各地で開催される陶器のイベントにも積極的に出展されている。実際に作品を使って頂く方との直接の関わりを大切に考えておられるのだ。ご自身の作品を購入して下さる方と直に接してのやりとりを、心から楽しいと感じておられる。
作品には、それを作った人の人柄というものが必ずと言って良いほど反映されるものである。作品が醸し出す雰囲気に、その作者の人柄も感じて、人は作品を愛でるのかもしれない。「作品が一人歩きをする」という境地が、最終到達点とする陶芸家もいるが、作品だけではない。作品とそれを作った人物両方に、人は価値を見出すのである。
田中さんは、近々、陶芸教室も開かれる予定をされている。人々との交流をますます広げられることにも意欲的だ。
田中宣夫
1960年 | 京都に生まれる |
1986年 | 陶器に魅せられ山科で修業 |
1988年 | 京都府立陶工高等技術専門校に入校 |
1989年 | 同校卒業後、茶陶を中心に修業 |
1997年 | 京都東山に開窯 |
1998年 | 京焼・清水焼展入賞 以後数回入賞 |
1999年 | 東京新宿小田急百貨店にて個展 以後、茶陶を中心に製作活動をし現在に至る |
深山窯 田中深山
〒612-0812 京都市伏見区深草坊山町19-2
TEL:075-643-7603