2018年2月9日(金)~21日(水)の期間中に開催しておりました、「平井明 陶展 ~記憶の層~」をご紹介させていただきます。
現在、奈良県にて作陶されている平井明さんは、1994年に京都府立陶工高等技術専門校を卒業された後、京都宇治の窯元朝日焼にて修行されていました。
彼の作品は、有機的なフォルムに線状の加飾が施されたものとなており、地層からイメージを得て制作されています。また、彼の工房からは唐子・鍵遺跡(奈良県)が近く、その出土品からもインスピレーションを受けており、遺物や発掘されたものの様な質感やフォルムを持つ作品となっております。
また、その作品はオブジェから食器まで幅広く、食器ではオブジェと違い金属のような黒い釉薬を使用した作品が多く並んでいました。
オブジェと同じ技法を用いた食器は、手触りもよく温かみのあるものとなっております。
平井さんの真髄はその作品の曲線に現れます。作品の表面に施された直線や曲線の模様、葉脈の様に縦横無尽に張り巡らされた模様などが、器本来の形・輪郭を強調することで力強く柔らかい姿を作り出しています。
美しく考え抜かれた輪郭は作品を装飾するだけでなく、空間そのものを飾り付けるような印象を与えてくれます。
その輪郭を際だたせるように施された作品表面の技法により、作品が動き出し、空間にも影響し、作品の周辺に風の流れが生まれたかのようです。この技法は、平井さんの作品の中でも、新しい技法となっており、空間を動かすような模様は、櫛を使って溝を彫り加飾する櫛目という技法で表現されています。
まるで、風化した地層のような表情に、これまでの作品の面影を感じ、積み上げられてきた軌跡を感じることが出来ます。
空間を彩ることに長けた彼の作品は、オブジェ・食器だけではなく、茶陶の世界においても特徴的で素晴らしい作品を生み出しています。作品表面のテクスチャーだけではなく、釉薬による表現にも取り組まれており、深い緑色の釉薬と加飾作品との対比がおもしろいです。
本展覧会のサブタイトルでもある「記憶の層」。これは、平井さんの手がける新たな技法(地層の様に見える模様)や、その取り組みの中にこれまで培ってきた技法が記憶として積み重ねられてきたという意味での「層」として組み込まれており、彼の積み上げてきた陶芸史を作品を通じて垣間見ることが出来る展覧会となりました。今後の平井さんの活動にご注目ください。
京都陶磁器会館2Fギャラリーでは、様々な陶磁器作家・窯元の展覧会を実施しております。京都・東山にお越しの際はぜひお立ち寄りください。