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山下裕美子「きおくの輪郭」

かたちの殻1

山下裕美子「きおくの輪郭」

土という素材から、「重量」を可能な限りそぎ落としたならば、表層には何が残るのだろうか。そんな思いから、山下裕美子は様々な形を限りなく薄い膜として表現しようと試みてきました。

彼女の作品は、原型の上に泥漿を塗りながら、和紙を12~14層張り重ねます。そして原型を取り除いて乾燥させ、焼き上げられます。焼成することにより和紙は燃え尽きますが、和紙にしみ込んでいた泥漿は焼けて磁器となり、何層にも重なった磁器特有の透光性を持った膜状の作品が完成します。

焼け残った磁器の膜、その作品の中に内包された空気や和紙のテクスチャーが、和紙が存在した「痕跡」として残ります。この「痕跡」は紙から磁器への変換であり、彼女にとっては物質を時間へと変換させる試みであるようです。

また、山下にとって作品を構成する膜は、空間そのものの輪郭であり、内と外との境界でもあり、そしてそれは作者にとっても、見る者にとっても、自分と世界の境界線(輪郭)となります。山下はこの境界をできるだけ虚ろにし、空間に拡散していくものを作ろうと試みてきました。しかし作品からできる限り重さを取り除き、存在感を希薄にしても物体は面前に存在し続けます。この矛盾から、彼女は世界に自己と他者、世界と自分の存り方を問いかけています。

会場を歩いて、作品の置かれた空間を移動することにより、時間の記憶と、自らの存在へ思いを巡らせていただければ、と思います。

 

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